「……きて、起きて、月乃ちゃん」
名前を呼ばれて、ゆっくりと意識を取り戻す。
目の前に見えるのは、見覚えのない木目のクロスが張られた天井。
周囲を見回してから、ここは太陽くんのマンションだと気付く。
どうやら私は太陽くんのベッドで眠っていたらしい。
「おはよう、月乃ちゃん。やっと目を覚ましたね」
「……頭痛い」
にこやかな笑顔で声をかけてきた太陽くんは、さっきまでとうってかわって調子が良さそうだ。
ベッド近くに置かれたスツールに座って、にこにこと笑顔を向けている。
ずきんと再び頭が痛んだ。貧血を起こしているみたいに、目の前がぐるぐる回っている。
「なんか、身体がダルイんだけど」
「ごめんね。ちょっと精気を吸いすぎちゃったみたい」
私がゆっくり体を持ち上げると、たいして悪びれた様子もなく太陽くんが言った。
なるほど、この体調が悪いのは精気を吸われ過ぎたせいなのか。
「太陽くんは元気そうだね」
「月乃ちゃんのおかげだよ。正直、かなり助かった。ありがとうね」
ツヤツヤした顔でお礼を言われて、私は顔を顰めた。
弱っている姿に同情したけれど、同情してやる必要なんてなかった気がする。
太陽くんが元気になって、私の体調が悪くなるなんて、理不尽だ。
「精気を吸われ過ぎたらこんな風になるなんて、知らなかったんだけど」
「うん。俺も今まではその辺、気をつけてたんだけどね。今日はちょっと空腹すぎて加減ができなくて」
「はぁ、もう良いよ。でも、なんでそんなに空腹だったの? おととい、補充したよね」
ちょうど2日前の夜、夢の中で私は彼に精気を渡しているのだ。
そんな急に空腹になったりしないはずだし、そもそも、太陽くんが学校を休むなんて初めてのことだ。
何が原因なのかと尋ねると、太陽くんはちょっと困った顔ををした。
「ちょっと厄介事があって、逃げるのに力を使ったんだ」
「厄介事?」
「うん。ほら、俺って悪魔の一種でしょ? だからまぁ、敵対勢力みたいなのに狙われてんの」
さらりと告げられた言葉は現実感が無くて、私はぽかんと口を開いた。
「なにそれ。ファンタジー映画?」
「まぁ、俺の存在自体がファンタジーみたいなものだし」
「狙われてるって、まさか、命を?」
そんな馬鹿なと冗談めいて尋ねたら、太陽くんから思いがけない真剣な眼差しが帰ってきた。
冗談ではないのだと気がついて、喉が渇く。