疑問をいっぱい抱えながら、私は家に帰ることにした。

せっかく電車に乗ってきたのに、無駄足を踏んだものだ。

自宅に向かって歩いていると、突然背後から声をかけられた。


「おい、そこのテメェ、ちょっと止まれ!」


強い力で肩を掴まれる。驚いて振り返ると、三白眼の目つきの悪い男が立っていた。

男はガラの悪い奇抜なパンクスタイルの服を着ていて、紫のメッシュが入った黒髪から覗く耳には、ピアスがいっぱい刺さっている。


「ひっ!」


男を見た瞬間、私の喉が引きつった。

男の容姿が怖かったからじゃない。

この男の纏うオーラがとんでもなく黒かったからだ。

太陽くんと比較してもまだ黒いんじゃないかというくらい、真っ黒な闇。

そんな闇のオーラを纏った男は、顎に手を当てて、怯えた様子の私をジロジロと見つめた。


「やっぱりな。アンタ、橙(だいだい)の紐付きだろう」

「橙? な、なんのことですか? 人違いですっ」



ワケの分からないことを言われて、私は慌てて首を左右に振る。

できるだけ関わりたくないと思ったのに、男は機嫌を損ねたようにドスの効いた声を上げた。


「ああ? しらばっくれてんじゃねぇぞ。 テメェから橙の臭いがしてんだよ。いいから、来い!」


男は私の腕を掴むと、無理やりに引っ張ってズンズン歩いていく。

それはとても強い力で、私は転びそうになりながらもどうにか男について歩いた。

大通りを曲がって、住宅街の間を抜けていく。



「ど、どこに連れていくんですか!?」

「橙のところだよ。アイツ、ヘマ踏みやがったんだ」



だから、橙って誰のことよ! そんな人知らないってば!!

心の中で悲鳴を上げていると、見たことのあるマンションの前へと連れてこられた。