「はは、すっごい顔。そんな嫌?」
「正直言って、すごく嫌」
心の底から私がそういうと、彼は楽し用にぎゅっと手に力を込めた。
「そこまで嫌がられたら、余計に連れて行きたいな。駅前でいいよね」
「行くって言ってないんだけど。 手離してよ!」
太陽くんは強い力で私の手を掴んだまま、無理やり駅前へと連れて行く。
太陽くんと一緒に歩いたら、道行く人が振り返っていくのがすごい。
そうして、隣にいる私を見つけて嘘、あの子が彼女?って顔をするのだ。
本当に、一緒に歩きたくない。
心の底からそう思っているのに、彼は問答無用で私を連れ歩く。
「女避けの恋人役は学校限定じゃないの?」
「もちろんそうだけど。デートどこ行ったの?って言われて、なんも答えられなかったら困るでしょ」
「適当に嘘つけばいいじゃん。得意でしょ?」
「甘いね。適当な嘘はすぐばれるんだよ。嘘をつくなら、ちゃんと設定を作りこまないと」
流石、常日頃から周囲を騙している人間は言うことが違う。
私が呆れた視線を向けると、太陽くんは心外だとばかりに肩をすくめた。
「まあ、そういうわけだから制服デート。どっか行きたいとこある?」
「あいにく、お金ないよ。財布の中は500円しかない」
「500円って、いまどき小学生でももうちょっと持ってるよ」
「小学生以下の私はデートに向いていないので、帰っていいかな?」
「ダーメ。お金なら奢るからつきあって。映画でいい?」
さらっと奢ると言った太陽くんをうろんな目で見つめる。
恋人のフリのバイト代といい、ずいぶんと羽振りがいいものだ。
けれども映画と聞いて私はぴくりと眉を跳ね上げる。
「ジャンルは?」
「アクションでもホラーでも、好きなの選んでいいよ」
「本当に、奢りで?」
「もちろん」
景気の良い話に、私は小さくガッツポーズをした。
映画なんていつぶりだろうか。
そういうことなら話は別だ。私は太陽くんをひきずる勢いで映画館へと向かう。
「ほら、早く行くよ!」