「月乃ちゃん、おーまたせ」
放課後、帰宅しようとしたところを何故か太陽くんに捕まえられる。
彼の声をきいて、私はびくりと身体を震わせた。
「待ってないんだけど」
「そうつれないことを言わないで、一緒に帰ろう?」
親しげに太陽くんが肩に手を回してくると、クラスの中からきゃーと悲鳴が上がった。
太陽くんが唇をよせて、耳元でささやく。
「恋人なのに、一緒にいないのは変でしょう?」
こごえで私にそう言ってから、彼はくるりと教室を振り返った。
「じゃあ、お先に」
ひらひらと愛想よく手を振って太陽くんは教室を出ていく。
私は彼にひきずられるようにして校門まで連行された。
「よくまあ、毎日そんな分厚い猫をかぶってられるね」
「処世術だよ。月乃ちゃんももう少し愛想を覚えたほうがいいんじゃない?」
「社会人になったら考えるよ」
うんざりしながら生返事を返すと、はいっと手の平を差し出された。
「なに、この手」
「恋人なんだから、手くらい繋ぐでしょ」
「嫌なんだけど」
「バイトでしょ?」
仕事だと言われてしまえば弱い。
私はしぶしぶと太陽くんの手を掴んだ。
「それで、どこまで恋人のふりすればいいの?」
「そうだな。月乃ちゃん、今日はバイト?」
「え、いや。今日は休みの日だけど」
「じゃあ、俺とデートしよう」
「は?」
太陽くんの言葉に顔を顰めると、彼は思わずと言った様子で噴き出した。