「だったら私じゃなくて、言い寄ってくる女の子達から精気を食べれば良いじゃない!」

「悪い噂を立てたくないって言ったでしょ。普通の相手だと、10人くらいから精気をもらわないと調子を保てないんだよ。学校で10股なんかしたら、流石に目立つでしょう?」



それはまぁ、確かに目立つ。あっという間に悪評が立つ。

その点、私なら1人で10人分を賄えるから、面倒がなくて良いということか。



「それで、私に女よけのニセ彼女になれと?」

「そういうこと」

「私になんのメリットもないじゃん。デメリットしかないじゃん」



たとえ偽物だとしても、春日太陽の恋人だって?

そんなの、他の女の子から嫉妬されるに決まっている。

こんなクソみたいな男だけど、外面だけはいいのだ。モテるのだ。

その恋人だなんて、面倒臭すぎるし、嫌すぎる。



私ががっくりと肩を落とすと、春日くんは考えるように口元に手を当てた。



「じゃあ、バイトってことでどう?」

「は?」

「うちの学校はバイト禁止でしょ? 下手したら退学になるリスクもあるのに、こっそりバイトしてるなんて、雨夜さん、お金に困ってるんじゃないの?」



春日くんの言葉に、私は苦い顔をした。

春日くんの推測通り、私はお金に困っているのだ。



「精気の補充は週に二回。あとは学校で俺の恋人のフリをする。その条件で――そうだね。月に五万でどう?」

「五万!?」




悪くない金額だった。

生活リズムをほとんど変えずに済むうえに、五万円。

いやでも、お金をもらってキスをするって、女子高生としていかがなものか。

夢だからセーフ? 現実で身体を売るわけじゃないから、大丈夫?





「抵抗あるなら、無料で協力してくれるのでもいいよ?」

「ぐっ。……五万円、いただきます」



結局のところ、やられることに変わりはないのだ。

だったら、貰えるものを貰ったほうがマシである。

私が了承すると、春日くんは満足そうにニヤリと笑った。



「交渉成立だね。あ、これからは恋人なんだから、俺のことは太陽って呼んでね?」

「……よろしく、太陽くん」

「うん、よろしくね。月乃ちゃん」



太陽くんは、馴れ馴れしく私を下の名前で呼んだ。

ものすごーくよろしくないけれど、私はしぶしぶ頷いたのだった。



こうして私に、悪魔な恋人(ほしょくしゃ)ができたのだった。