私はむっと口をつぐんだ。春日くんの思い通りになるのは癪だ。
だけれども、ここで断っても結局はさっきみたいな夢を見せられるらしい。
「精気の受け渡しって、方法はキスなの?」
「雨夜さんは精気が濃いから、キスだけで大丈夫だよ。もっと濃厚な接触の方が効率はいいけど」
「絶対にイヤ!!」
「残念」
春日くんの提案を私は即座に否定すると、彼は軽く肩をすくめる。
残念、なんて言いながら、全然残念そうじゃないのがまた腹が立つ。
「精気を奪うのは、夢の中だけなんだよね?」
「現実の接触でも精気を食べることはできるよ。そっちが好みなら、リクエストに応えてあげてもいいけど」
「冗談じゃない!」
夢の中でキスするだけでも嫌なのに、実際になんてありえない!
「どうしても私の精気が欲しいっていうなら、夢の中だけにして。現実では指一本も触れないで」
「指一本っていうのは難しいかなぁ。恋人に指一本触れないなんて、流石に不自然だし」
「待って。誰が何だって?」
恋人ってナニ。エサの話をしていたんじゃないの?
私が目を瞬かせると、春日くんはふっと色っぽく笑った。
「さっき言ったでしょう。俺の恋人になって、って」
「エサになって、という風に聞こえたんだけど」
「恋人という名のエサだよ。俺、女よけが欲しいんだ。学校では悪い噂を立てたくないんだけど、適当に良い人を演じてたら、寄ってくる女が鬱陶しくて」
ああ、このセリフをキャアキャア言ってる子たちに聞かせてやりたい。
みんな、騙されているんだ。春日太陽はクズで悪魔なんよ。