パチンと春日くんが指を鳴らすと、身体の自由がきかなくなった。
指一本、私は自分の意思で動かせない。
「なに、これ、何をしたの?」
「夢は俺達のテリトリーだよ。ここは俺の作った夢の中。だからこの世界だと、雨夜さんの身体も俺が思った通り、自由自在に操れるんだ。例えばほら、右手上げて?」
春日くんがそういうと、私の意思と関係なく右手が勝手にもちあげる。
「やだ、なにこれ!」
こんなわけがわかんないの、絶対に無理!
逃げようと私はもがくけれど、指の一本すら自由に動かせなかった。
ぎりっと春日くんを睨みつけると、彼は楽しそうにくつくつと笑う。
「いいね、その顔。ぞくぞくする。もっと悔しそうにしてよ」
「へ、変態!! サディスト! このっ、悪魔!!」
「そのとおり、俺は悪魔なんだ。というわけだから、雨夜さん。俺の側にきて?」
「やっ……」
どうにか抵抗しようとしたけれど、身体が勝手に春日くんのそばへと歩いてしまう。
春日くんは薄く笑いながら私を見下ろすと、右手で私の顎を掴んで上を向かせる。
「可哀そうに。身体、震えてるね? 怖い?」
怖いかだって? こんなの、怖いに決まっている。
彼は人間に見えるけど、実は悪魔で、私は自由に身動きひとつとれないのだ。
「怖かったら泣いても良いんだよ。恐怖に震えてむせび泣く雨夜さんの顔は、そそりそうだ」
うっとりと言う春日くんに、私は思わず身震いした。
春日くんの思い通りになってたまるものか。
何があっても絶対に泣いてやらないと、私は心に誓った。