ほんの少しの間、私は気絶してしまっていたらしい。
ベッドに突っ伏した状態から慌てて身体を起こすと、安らかな顔で眠っている太陽くんが見えた。
成功……したの? 太陽くんは無事!?
「成功だ、終わったぞ。良かったな。これでコイツは人間に戻った」
紫苑さんの言葉にほっと息を吐く。
良かった、成功したんだ。太陽くんは無事なんだ……!
紫苑さんが居なければ、きっと上手くいかなかっただろう。
ありがとうございますとお礼を言おうと顔を上げて、私は言葉を飲み込んだ。
紫苑さんが、とても悲しそうな顔で太陽くんを見つめていた。
「紫苑さん……?」
どうして、そんな顔をしているのだろうか。
私が不思議に思っていると、私に見られていることに気づいた紫苑さんが、じろっと睨んだ。
「初めてにしちゃあ、上出来だったぞ。あの調子だと、そう苦しまずに済んだだろう」
「え、あ、はい。ありがとうございます」
紫苑さんに初めて褒められて、私は少し戸惑った。
まあでも、太陽くんがあまり苦しくなかったのであれば、それに越したことは無い。
「それじゃあな。俺様はもう行く」
「太陽くんの目が覚めるのを待たないんですか?」
私が尋ねると、紫苑さんは太陽くんに視線を落として、それから首を左右に振った。
「俺様が手を貸すのは、同族にだけだ。――俺様は、人間は嫌いなんだよ」
「夢魔じゃなくなったから、太陽くんにはもう会わない?」
「そうだ。俺様はもう二度と会わねぇ。コイツにも、お前にもな」
――人間と悪魔ってのは、その方が良いんだ。
紫苑さんはそれだけを言い残すと、魔力を使ってどこかへと消えてしまった。
きっと彼はその言葉通り、二度と私達の前には現れないのだろう。
ほっとするような気持ちと同じくらい、物寂しいような気分になる。