月乃ちゃんが夢魔だなんて、とんでもない。
俺達は精気が無いと生きられないのだ。そして、悪魔から精気を得ることはできない。
月乃ちゃんが食事の為に他の男とキスやそれ以上のことをするなんて、そんなの許せるはずが無い。
「あの女なら、案外あっさりと受け入れるかもしれねぇぜ? なにせ、お前のために人生を投げだしてもいいって言ってんだ。お前が言えないなら、俺から提案してやろうか?」
「止めてくれ!俺は、月乃ちゃんを悪魔になんてしたくない」
月乃ちゃんに悪魔は似合わない。
たとえ彼女が望んでも、俺と同じところまで堕としてはいけない。
月乃ちゃんを幸せにしたいんだ。幸せになって欲しいんだ。
「紫苑さん。彼女を悪魔にしたいんじゃない。俺が、人間になりたいんだ」
俺が絞り出すようにそういうと、紫苑さんは顔を歪めた。
「そんなのは、賛成できねぇ」
「紫苑さん」
「ダメだって言ってんだろう! どうしてもヤルっていうなら、全力で妨害してやる! 俺はなぁ、橙が消えるのは嫌なんだよ。仲間がいなくなるのは、もう、見たくねぇんだっ」
紫苑さんが痛みを耐えるみたいに顔を歪める。
どうして、そこまで紫苑さんが仲間にこだわるのか、俺には分からない。
この一年、色々と世話になりはしたけど、俺は彼のことを何も知らないのだ。