「お前が言ってるのは、橙を殺すってことだ。分かってんだろ、なぁ、太陽?」
その時はじめて、紫苑さんは俺の名前を呼んだ。
人間としての俺に殺意を向けて。
「お前がそんなことを言い出したってのは、あの女が原因だろう?」
「月乃ちゃんは関係ない」
「関係ないはずねぇよ。人間に惚れた悪魔が望むことなんて、だいたいが決まってんだ。人間に戻れば一緒に生きられるとか、そんなことを考えてんだろう?」
どうやら、誤魔化しても無駄のようだ。
俺は小さく息を吐いて、首を縦に振った。
「そうだよ。今の俺じゃあ、ずっと月乃ちゃんと一緒にいることはできない。いつか終わりがくる」
「解決策は他にもあるぜ? あの女を悪魔にすればいい」
紫苑さんはそう言って、暗い笑みを浮かべた。
そんな方法は考えたこともなくて、俺は思わず息を飲む。
「そんなこと……」
「出来ないことはないぜ? 眷属を増やせる悪魔ってのは結構いる。例えば吸血鬼なんか良い例だ。なに、ちょっと日光に弱くなって人間の血が欲しくなるが、老化も止まるし寿命もなくなる。些細なことだろう」
そんなのが、些細なはずが無い。
人間の血を欲しがる月乃ちゃんを想像して、背筋がぞっとした。
「吸血鬼は嫌か? だったら、同じ夢魔ならどうだ? 俺様は同族が増えるのは大歓迎だ。まぁ、あの女は霊力持ちだから、あの身体に馴染む奴を探すのは苦労するだろうし、融合することで意識がどうなるかは分かんねぇけどな」