「よぉ、呼んだか。橙」


紫苑さんは俺の顔見て気楽な感じに手を挙げた。

それから、しげしげと俺を観察して、満足そうに頷く。



「良かった。十分精気を食ったみたいだな。あの女はどうした?」

「月乃ちゃんなら、身体を休めてるよ」

「まぁ、そんだけ精気を食われりゃあそうなるか。むしろ、よく1回でそれだけ回復したなあ。流石は霊力持ちってところか」



紫苑さんは俺が回復したのを知って、本当に安心したように笑った。

月乃ちゃんと離れて、食事が出来なくなった俺をどうにかしようとしてくれたのもこの人だ。

月乃ちゃんに対する態度は許せないけど、だけど、唯一、俺が頼れる人でもあるのだ。



「聞きたいことがあるんだ」

「おう、なんだ?」

「悪魔が、人間に戻ることってあるのか?」



俺が問いかけると、紫苑さんの笑顔が消えた。

感情の読めない、能面のような顔でじっと俺を見つめる。



「――もし、そんな方法が実在するとして、俺様が教えるとでも思うか?」


紫苑さんの言葉に俺は首を左右に振った。