誘惑を跳ねのけることが出来ず、気づけば俺は男の言葉の続きを欲した。
俺の反応をみて、男は満足そうに薄く笑みを浮かべる。
「やり方は簡単だ。魔力とは正反対の力――つまり、霊力を限界まで体内に取り込む」
「馬鹿を言わないでください。そんなことをしたら、悪魔は死ぬ」
「そうだ。そうやって、自分の中の悪魔の部分を殺すんだ。悪魔との同化が浅ければ人間だった部分は残る」
「同化が深ければ?」
「人間だった部分も、一緒に引きずられて死ぬことになる」
つまり、失敗すれば死ぬということだ。
俺は息を吐きだして、首を左右に振った。
「到底信用できませんね。俺を殺すために嘘を言っていないのだと、どう証明できる?」
「どうしても信用できないなら、紫紺の淫魔に聞いてみればいい。知り合いなのだろう?」
「紫苑さんに?」
「彼は何百年も生きている古い夢魔だ。彼ならば、実際に悪魔が人間に戻った例も知っているだろうよ」
そうかもしれない。あの人は、短気な性格に見合わず知識が豊富だ。
色んな夢魔の面倒を見ているらしいから、悪魔が人間に戻った例だって知っているかもしれない。
だけど――。
「浮かない顔だな」
「あまり気が進まないだけですよ。用件はそれだけ?」
「ああ。もしその方法を試したくなったら、いつでも連絡してこい」
彼はそういうと、俺に一枚の名刺を渡して寄越した。
悪魔に名刺を渡すなんて、奇特なヤツだ。
彼は俺にそれだけを伝えると、本当になにもしないで帰っていった。
手元に残った名刺を見ながら、俺はため息を吐く。