こんな身体では、普通の仕事に就くこともできない。

命を狙われる危険もあるから、同じ場所に長期間留まるのも危険だ。

世界中を転々とする生活が、悪魔の普通なのだと紫苑さんは言っていた。


このマンションも、できればすぐに移動した方がいい。

俺がこのあたりに居ることを、あの退魔師に知られてしまった。

昨日、散々術を使ったから、この場所がバレるのも時間の問題だ。

できるならすぐにも別の場所に行きたかったが、今は月乃ちゃんが動けるような状態じゃあない。



もう彼女を置いていくなんて考えられなかった。

俺と離れたほうがきっと、月乃ちゃんは幸せになれる。

それが分かっているのに、手放せない。手放すくらいなら、死んだ方が良い。


ぎゅっと、胸のあたりが苦しくなる。


月乃ちゃんは、いつまで俺の側にいてくれるだろうか。

ずっと年を取らない俺を、いつまで恋愛対象として見てくれる?

こんな生活、すぐに嫌になるんじゃないか。

俺と一緒にいることに、メリットなんて何もないのだ。月乃ちゃんは人間で、いつだって俺の側から離れていける。


考え事をしていると、皿を落としてしまった。

カシャンと音が鳴って破片が飛び散る。

音で月乃ちゃんを起こさなかったか不安になって確認すると、規則正しい寝息を立てる彼女が見えて息を吐く。

音の煩い掃除機を使うのが嫌で、俺は魔力で破片を集めて、ゴミ箱へと入れた。