「それでも、太陽くんが殺されるよりはいい」


私がそう答えると、紫苑さんは気が済んだらしい。

ふんと鼻を鳴らして、私から目を反らした。


「その覚悟が決まってんなら、良い」


紫苑さんの反応に私は首を傾げる。

ちょっと前まで、私と太陽くんの仲をものすごく反対して、私のことを殺しかねないような勢いだったのに、何か心境の変化があったのだろうか。


「良いって、私が太陽くんの側にいても良いってこと?」


私が紫苑さんに尋ねると、彼は苦々しい顔をした。


「てめぇを引き剥がすタイミングを間違えたんだよ。警告なんて悠長なことしてねぇで、殺すなら、もっと早く殺っとくべきだったんだ」

「紫苑さん」

「あああああ、煩ぇな、橙! 分かってるって言ってんだろうが。手ぇだしたりしねぇよ!」


紫苑さんは怒鳴るように声を荒げて、それからはぁと大きく息を吐いた。


「おいクソ女! 精々、精気をたらふく橙に食わせてやれよ。コイツは今、立ってんのがやっとくらいの状態なんだからな!」


紫苑さんは吐き捨てるようにそう言うと、魔力を使ってその場から消えてしまった。

紫苑さんが残した言葉に驚いて、私はまじまじと太陽くんを見る。

改めて観察してみれば、確かに、太陽くんの顔は少し青ざめているように見えた。


「太陽くん、体調が良くないの?」

「ああ、まぁ、単なる精気不足だよ」


太陽くんは誤魔化すようにそう言って、それからぎゅっと私を抱きしめた。