「なんだソレ。ってことは、コイツは退魔師の弟子になったってことか? 飼い犬に手を噛まれるってのも、ここまでくれば滑稽すぎて笑えねぇな」
紫苑さんの魔力が膨れ上がる。
「危ない!」
ライアンさんが私の前に立ちふさがって、私を庇うようにかき抱いた。
パシッと音が鳴って、ライアンさんが張っていた結界がはじけ飛ぶ。
「へぇ? ずいぶんと仲が良いじゃねぇか。なぁ、腐れ女。てめぇ、橙を好きだなんて言っておいて、よくまぁ退魔師なんかに弟子入りできたなあ。アイツに近づいたのも、油断させてから殺すつもりだったのか? だとしたら、大したタマだよ」
「違う、私はそんなつもりじゃない!」
「じゃあ、どんなつもりだ! 何の裏があってアイツを唆した? てめぇの所為で、アイツは……!」
子供か癇癪を起すみたいに、紫苑さんの言葉に合わせて彼の魔力が膨らんだ。
その欠片が弾丸のように飛んできて、私の腹部にぶつかる。
「ぐっ!」
「月乃さん、っ!!」
ライアンさんも魔力の破片に貫かれ、私と同じように地面に転がった。
力が、全然違う。紫苑さんに殺気を向けられたら、逃げられる気がまったくしない。
だけど、そんなことよりも、紫苑さんの言葉が気になった。
「アイツって、太陽くんのこと? 太陽くんに何かあったの!?」
「てめぇの所為だよ。お前なんか、いなければ良かったのに」
紫苑さんは、憎らし気な目で私を睨んで、手のひらを私に向かってかざした。
紫苑さんの手の平で、魔力の塊が膨れ上がる。
その塊が私に向かって放たれる前に、懐かしい影が私と紫苑さんの間に割って入った。
「月乃ちゃんに手をだしたら、紫苑さんでも許さないよ」
そう言って、私を庇うように現れたのは太陽くんだった。