そんな感じで修行は順調に進んだが、トラブルは、寺に来て10日目に起こった。

けたたましい音でライアンさんのスマホが鳴って、彼は私には聞き取れない英語を使い、真剣な症状で通話をはじめた。険しい表情で通話を切ると、私に向き直る。



「退魔の依頼が入った。ここからそう遠くない場所だ」



退魔という言葉に心臓がドキリとする。



「女性の誘拐事件が数件。うち、数人は衰弱した状態で見つかっている。その状況や女性の証言から、夢魔に精気を奪われたことが原因じゃないかと推測されている」

「夢魔が……」



心臓がドキドキと早くなる。



「君の思い人が犯人の可能性が高いと、俺は考えている」

「どうして?」

「夢魔はそこまで数が多くない。それに、君の思い人はまだこの近くにいるはずだからだ」



どうしてそう断言できるのか。

私が眉根を寄せると、ライアンさんはふぅと小さく息を吐いた。



「夢魔の印は、術者との距離が遠くなると自然と消えるんだ。だから、君にその印をつけた夢魔はまだこの近くにいる。そして、この近くで夢魔がらみの事件が起きた」

「だから、彼の仕業だって?」

「そうだ」



ライアンさんは断言したけど、私はどうにも納得できなかった。

そりゃあ、私から精気を食べていない以上、太陽くんもだれか別の女性から精気をもらっているのだろう。



……想像したら、胸がツキンと痛む。



いや、違う。今は切なくなっている場合じゃない。

とにかく、別の女の人から精気をもらっているにしても、衰弱させるようなことはしないと思うのだ。

私から精気を奪う時だって、太陽くんはかなり気をつけてくれていた。

力を使い果たして弱っていた時だけ精気を奪われ過ぎたことがあったけど、その1回だけだ。


そう考えて、再び嫌な予感がした。