「夢魔は低級悪魔だから、被害はまだ可愛いものだよ。性被害を可愛いと言っていいかは分からないけど、同意の上の行為がほとんどだしね。とはいっても、魔力で魅了された上での同意だったり、中には精気を吸われ過ぎて死ぬ人もいる。できれば放置したくない」

「夢魔以外の悪魔もいるんですか?」

「もちろん。夢魔は人間の精気を食べるけど、中には人間の魂が主食の悪魔もいる。人肉を食らう悪魔もね。そういうのを見かけたら、絶対に放置はできない」



ライアンさんはそう言うと、ふぅと大きく息を吐いた。



「悪魔が悪いってわけじゃ無い。だけど、人間とは相容れないんだ。彼らにとって人間は食料なんだよ。人が牛や豚を食べるように、彼らは人間を食べる。それこそ、生きるためにね。だからって、黙って食べられるわけにもいかないだろう?」

「そう……ですね」



悪いだとか、悪くないだとかいう問題じゃない。

種族として相容れないのだ。

ライアンさんが言っている言葉は理解できるのに、太陽くんと私の距離がますます開いていくみたいで、胸が苦しい。



「人を食べる悪魔は、辛くないんでしょうか。彼らにも、人間と同じように心があるのに」



もし私が、人を食べなければ生きていけなくなったら。

それはものすごく辛いと思うし、苦しいと思う。



「きっと、辛くならないように、彼らは人間をエサとしか考えないようにしているんだと思うよ。たとえ言葉が通じたとしても、絶対に同種ではないのだと線を引く」


私は苦い顔で押し黙った。

住む世界が違うと、何度も言い聞かされる。



「さっき探ったけど、月乃さんに魅了の術がかけられているような形跡はなかった。君は本当に自分の意思で、彼を好きになったんだね」

「……はい」

「月乃さんには霊力がある。夢魔にとっても良いエサだったと思う。それなのに、彼は君の前から姿を消したの?」

「最初は、一緒に行こうって言ってくれたんです。だけど、やっぱり自分ではダメだって。人と悪魔は幸せになれないから、って」



私がそういうと、ライアンさんは複雑そうな顔をした。