「あ、そう言えば。
紀恵さんリップクリームはお持ちですか?」


「え?持ってるけど…」


「そうですか。じゃあ買わなくて済みそうですね。」





それが、なに?




私は颯太さんのいる方に顔を向けた。
すると颯太さんは自分の唇を指さして





「ここ、荒れてましたよ。
暇があれば塗った方がいいと思います」


「は?え?」


「それでは、おやすみなさい。」





私に疑問をもたせたまま
颯太さんは部屋を出て行った。




パタリとドアが閉まって
部屋の中は静けさを取り戻す。




私の唇がカサカサって事だよね?
でもなんでわかんの。





「(……まさか。いやまさか)」





なんとなく、その疑問に気づいている自分もいるけれど
それはなかなか認めたくない。





”飲ませたんですよ、あなたが寝ている間に。大変だったんですから。
寝ているにも関わらず嫌がるので強引に飲ませました”





颯太さんが言ったこの言葉を私は瞬時に思い出す。