「紀恵」





不意に呼ばれた私の名前。


しかも呼び捨てなのだから、たったそれだけのことでまたしても胸がキュンッとなる。



ただ名前を呼ばれただけなのに。



顔を上げた矢先。





「───んっ」





私の口は颯太さんによって塞がれる。



一瞬だけ触れたそれが徐々に深くなっていくと、そのキスはいちごミルクのような味がした。





「っ…、そ…たさ…」





話そうとすれば


チュッ、と。触れ合っていることをもっと感じさせるようなリップ音。



ちょっぴり苦しいそれに身を仰け反らせても、うなじあたりを掴まれより深くと求められてしまう。





「…はぁ…っ…」





甘くてなんだかとろけそう……




何も考えられなくなってボーっとしてしまう脳内。





「余計なこと、考えなくていいから。」





口元に艶のある笑みを浮かべる颯太さんに釘付けになると、何も言えなくなる。





(余計なことでもないと思うんだけど…)





私ももう20代なんだし……付き合っているんだから、少しぐらいそういうことも考え始めてもいいんじゃないかなって。




けれど



結婚ってどう思う?



その返事を聞くことはなく、私は重なった唇に応じきれているのか分からないまま、ぽーっとその熱を味わった。