そんな中、ポケットに入れたままだった携帯が小刻みに震えていることに気がつき、
たぶん電話だろうそれ。
(今声かけるとまた驚かしてしまうか)
集中してその映画を見入っているのだから、声はかけず、邪魔しないようにとソファーから立ち上がる──が。
「どこに行くの…?」
怯えながらも見入っていたはずの紀恵にクンッと服の袖を引っ張られ、
「ああ、ちょっと電話。」
「……………」
「……紀恵?」
「1人にしないで…」
その瞬間、グサッと心に矢が刺さった感覚。
俺を見上げるその潤んだ瞳。
微かに震えている手。
甘える口調。
俺をこの場に留めるための策だとしたら満点をあげたいくらい。
「……行かないよ。どこにも」
その策に完全にはまってしまった俺は持っていた携帯を再びポケットへしまう。
一瞬だけ見えた画面には『涼』の文字が見えたのだから、まあ出なくてもいい案件。
どうせ欠員が出たから今から出勤して欲しいとか、そーゆー知らせだろう。
絶対に行かないし、この時間を邪魔するなと言ってやりたい。



