「……紀恵」





名前を呼ばれたことが、

何かの合図なんだと感じて


離された手を見てそう思った。





ゆっくりと身体を颯太さんの方へ。



体勢を変えると、そこには溶けてしまいそうに甘く私を見つめる彼がいて。







「────好きだ。これから先もずっと、俺は紀恵さんだけを愛してる。」






真正面から言われたその言葉。


真剣な眼差しは私を射止めるように貫く。




あの時の苦しみに染まった彼なんて存在していたのか疑わしくなるほどに


今、目の前にいる彼はどんな景色よりも美しかった。






「わ、たしも……」





手で、ギュッと颯太さんの服を握る。




恥ずかしくて、顔が俯きそうになったけど


彼は真っ直ぐ私を見て

気持ちを伝えてくれたのだから






「颯太さんのことが、すごく好きっ…大好き……私も颯太さんを愛してるっ……」






私もそんなあなたにちゃんと気持ちが伝わればと、潤む瞳で彼の目を見て伝えた。






……言葉だけじゃ、もう足りない。






軽く背伸びをして颯太さんに近づく。



颯太さんも、ゆっくりと、私に顔を近づけて…







「────クシュンッ」






……と。


まあ、タイミング悪く…
くしゃみをしてしまったのだけど。




ああ、最悪…。





「ごめんっ…寒くないのに、なんでだろう……」





キスする流れだったのに…


それを止めてしまったことがなんだか申し訳なくなって、颯太さんの顔を見れずにいれば。




ふわり、と。




私の首に引っ掛けられたそれは、颯太さんが持ってきていたであろうマフラー。





今日一日使っている所は見てなかったけど、そのマフラーから香る匂いは颯太さんの香り。



そして────






「っ、!」





そのマフラーを引っ張られると、

当然の事に前のめりになって

意識する前に触れた先は、

颯太さんの唇。





そのマフラーが私たちのその瞬間を隠すようにして、触れ合った。






「なっ……」






ワナワナと口を開かせる私に


颯太さんはクスリと笑って。






「また俺のことを" さん "付けで呼んでいたでしょう?呼び捨てでって言っているのに。」


「それを言うなら颯太さんだって…!あっ」


「ほらまた。まあ……俺もまだ慣れてないな。」






お互いにまだ不慣れなそれ。


その事実に2人揃って笑い合い






「じゃあ…これからの課題ってことで!」





これから先の、約束を交わす。







一時期は来るはずのない未来を願っていた日々。




けれど、今度こそは

あなたとの未来を想像していこう。





笑顔が絶えない、そんな日々をーー。