聞こえてくる音は、あまりざわつきのない感じ。
人気が少ないんだなってことを分かりやすく感じた。
そして何歩か歩いた先、
颯太さんの手が離れ、少し不安になると
「開けていいよ。」
耳元で囁かれたそれ。
言葉通り
ゆっくりと開ければ
「わあっ……」
瞳に飛び込んで来たのは
この園内の全体の景色。
園内に広がる光がカラフルにキラキラと輝きを放って、私の心を華やかな気分にさせてくれる景色だった。
『一緒に見たい景色がある。』そう言っていたものだから
きっと夜景か何かだろうとは思っていたけれど、
それは私の想像を遥かに超えるほど。
「綺麗…」
思わず目の前の塀に手をつき、前のめりになって見てしまうほど美しい景色。
「想像通りでしたか?」
「想像は…してたけど、こんなにも綺麗な景色は想像してなかった……」
目線をその景色から逸らせないほどに。
そんな私を挟むようにして、
颯太さんがその塀に手をつくから
思わずそれにはドキッとしてしまって。
「幼い頃に一度だけ、この場所に来たことがあるんです。……俺に愛のなかった両親と。」
表情は見えない。
けれど、聞こえてくる声はどこか落ち着いているような。
「両親は俺をただの飾りとしか思っていなかった。
子供がいると、何かと優遇されることもあるみたいで。きっと俺を産んだのはそんな理由。
そんな作りもののような家庭で、両親は表面上だけちゃんとした家庭を演じていたんです。
まあ…そんな日々も俺が高校生になる前に崩れてしまい、離婚。俺は父親に連れられ、母親とは離ればなれに。俺を連れ出した父親は離婚してすぐ病で亡くなりましたが。
……そのため、ちゃんとした愛情というものを受けてこなかった俺は最近までそれを知らずに生きてきました。
そんなものなくたって生きていける。そう思っていたはずが………あなたに再会してから、その考えはガラリと変わった。」
塀にあった私の手を握るように、手を乗せられて。
「俺はあなたに様々なことを教えてもらいました。
嫉妬というものも、俺のものだけにしたいという独占欲も、初めて経験した。
この手から手離したくないと、
初めてそんな気持ちにさせられた。
そして……愛情というものはこんなにあたたかいものなのだと、俺に気づかせてくれた。
愛情なんてなくても生きていける。
その考えは、もう、俺の中にはありません。
俺は……あなたを手離しては生きていけないから。」
「っ………」
瞳に映る景色も
手に感じる温もりも
愛のあるその言葉も
全部が、私の心に染み渡る。



