お父さんには内緒で颯太さんと再会したあの日から数日が経った。




「さむっ……」




私は、学校終わり近くの河川敷を歩いている。





家に帰りたくないからとかそういう事じゃなくて、ただ少し気分転換に。





『少し……時間をください』





あの日、颯太さんは消えてなくなってしまうような声でそう呟いた。




その一言を聞いて





(私のバカっ……なんでもっと颯太さんを苦しめるようなことを…)




今になって後悔している。



あの時の颯太さんは形容のできない妙な表情を浮かべていたから。




どうか私の気持ちが伝われば。その苦しみから解放されれば………なんて私の勝手ばかり。



颯太さんの気持ちは何一つ聞けていない。


ただただ自分の気持ちをぶつけただけに過ぎない。




颯太さんは私から離れたくて

私は颯太さんから離れたくない



だからこそ、私が言葉にした数々は、颯太さんを拘束するもの。




今も尚、彼を縛り付けてる。





「ほんと、なんて事を…。」




そう後悔したところでもう遅いのだけど。






途方に暮れながらトボトボと河川敷を歩く。




その途中、とある一軒家が目に止まった。





" 陽葵何でも屋 "





その建物にはそんな名前が書いてあった。





(陽と葵……なんて読むんだろう)




読み方が分からないそれを深く考える訳もなく、珍しい会社だなって思っただけ。





(名前の通り何でもしてくれるところだったりして)




まあそんなお店あるわけないけど。



もしそうだとしたら……私は『好きな人とずっと傍にいられるようにしてください』なんて頼むんじゃないかな。






(颯太さんは今何してるんだろう…)



あの日すごく濡れていたけど、風邪引いてないよね?


次に会えるのはいつなんだろう。……いや、会ってくれるのかな。




会えたその日は


苦しみから逃れて、2人笑顔で笑い合い


優しくキスをしてほしい。



愛し愛されることは、どんなものにも変えられないほど幸せを感じる。





ふと、脳内に浮かんだのは、颯太さんと愛し合ったあの日のこと。



ハッと気がつけば、全身から煙が出ているんじゃないかってくらい身体が熱くなった。



わぁぁあ!っと叫びたくなる気持ちを抑え、悶えていると





「……頭痛いの?」


「っ!えっ、あれ、カズさん!!」





そんな私の元へ怪訝そうに現れた男の人が1人。それは名前の通り、カズさんだった。





「なんでこんな所に?!」


「それはこっちのセリフでもあるんだけど…」


「わ、私は気分転換にちょっと…」





カズさんの視線が下へと向く。





「その制服……あそこの学校の?」


「あ、はい!河川敷の近くにある学校です」





その場所を指せば、カズさんはそれにつられて視線を当てた。





「よく分かりましたね?この制服なんてどこにでもありそうなデザインなのに」


「……、まぁ…ちょっと」





その言葉、カズさんの口癖なのだろうか。何かを隠したい時必ずそう言っている気がする。



その先に私なんかが踏み込んでいいのか分からないけれど、カズさんの表情が薄らと曇った気が…。





「……そういえば、颯太さんの体調はどう?」


「え?……体調?」


「うん。熱、出てるんだってね。珍しく昨日から仕事休んでる。………知らなかったの?」





知らないも何も……


彼が今何をしているのか
何を考えているのか


傍にいないのだから、全く分からない。




(風邪って……あの日が原因?)


……それしかないよね。




勝手に会いに行って、雨に濡らせて、我儘を言って、彼を困らせた。



私は……どこまで彼を苦しませるんだろう。





「どーしたの?」




顔を覗き込まれてハッとなる。


自然と顔を俯かせていたみたい。





「っ!い、いえ!何も…」


「………………」




怪しむようにジッと見つめられる。
その視線に「うっ…」と声を漏らした。




颯太さんもそうだけど…あそこで働いてる人って、人の心を見透かすような鋭い何かを持ってる気がする。





「颯太さんと何かあった?」


「っ!!」


「…分かりやすいよね、キミって」


「か、カズさんが鋭いからですよ…」


「そう?俺、わりと鈍いよ。興味のない人に対しては」





ニッと意地悪げに口角を上げて笑う。



その笑みは何かを企んでいる、そんな笑みではなくて。





「キミに興味が湧いているのは、颯太さんが関わっているからかな。颯太さんはなんでも完璧にこなす人なのに、キミの事になるといつもと違う表情を見せる」




「あの日、電話越しに聞こえた冷ややかな声みたいに」と、なんだか楽しげで。





「そんな颯太さんを掻き乱せるキミは、一体何に苦しんでるの?」


「っ………」





その鋭さがあるからこそ、






「聞かせてよ、俺に。キミの心情を」





カズさんはホストとして選ばれるのだと、子供な私でもそう気付かされた。





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