「…………え?」





思わず目が点になる。



今……同居を解消しようって、言った、よね。





「え…まって、私赤点取らなかったんだよ?」


「うん」


「だから同居は取り消されなくて……」


「紀恵さん」






私の言葉を遮るように





「俺が、そうしたいんです」





ハッキリと聞こえるようにそう言ったんだ。






「自分勝手なことは重々承知の上です。ただ、そうしないと俺は───」









「キミに恐怖を与えてしまう」






その途端、じわりじわりと颯太さんに噛まれた所が熱くなった気がした。






「俺は、あなたの事が好きでたまらない。だからこそ些細なことでさえもあなたに嫉妬してしまうんです。


………今回の件だってそうだ。赤点を免れて良い点数を取ったというのに、素直に喜べない自分がいた。俺以外の男に教わって手に入れた点数が無性に俺をむしゃくしゃさせる。…たったそんな事で妬くんですよ。


大切にしたいのに大切に出来なかった。傍にいると、これから先もさっきのようにキミに恐怖を与えてしまう」






颯太さんは淡々と話していく。






「……俺は、紀恵さんを大切に大事にしたいんです。強張った顔も怯えた目つきも見たくない。



……これ以上、一緒にいるべきじゃないんだ」






とても、真剣に。


私の目をジッと見て逸らさず。





「い……やだ…」





やっと出た言葉はもちろん「嫌だ」。




颯太さんがいない生活なんて






「嫌っ……絶対嫌っ……」






私にはもう考えられないというのに






「紀恵さん…」






ギュッと強く握りしめている私の手を取って






「どうか、俺の気持ちを分かって下さい」






両手で包み込む。




顔を俯かせた彼は






「これ以上キミに恐怖を与えたくないんだっ…」


「っ………」






とても苦しそうな声だった。



私の手に触れるその手は、どこか冷たい。





こんなにも苦しそうに顔を歪ませる颯太さんを見るのは初めてだ。






「………っ、…」






だからこそ、「嫌だ」という言葉が出ない。



……ううん、言えなかった。






そう言えば彼は今以上に酷く苦しんでしまうだろう。





私も

颯太さんのそんな表情

もう見たくない。




見たくないのに──…






「うっ……ぁ…」






涙は絶えず溢れ出る。





泣いてしまうと、

颯太さんを苦しめてしまうというのに






「っ────」






もう声が出ないほど、泣いた。