────────紀恵side
「うっ……ヒック…」
ボロボロと出る涙を手で拭う。
ブラウスはきっちりと上までボタンが閉められている。
それはさっき颯太さんが閉めたから。
噛まれたところは未だに痛い。
「颯太さんっ……」
私を見る目がとても怖かった。
いつもと違う目。私を見ているようで見ていないような、どこを見ているのか分からないような。
颯太さんに触れられるのは嫌いじゃない。嫌いじゃないけど……
乱雑に床に散らばった解答用紙を1枚ずつ拾い集める。
「よく頑張りましたね」って、笑顔で褒めてくれると思ってた。……ううん、絶対褒めてくれると思ってた。
いつもの颯太さんなら私の頭を優しく撫でて褒めてくれるんだ。
なのに、今日は、
「っ………」
そっと噛まれたところに手を当てる。
あんな颯太さんを見るのは初めてだ。" 余裕 "という言葉が似つかない、そんな感じだった。
チラリと再び解答用紙に目線をあてれば、「カイが分かりやすく教えてくれたから」そう言っていた自分を思い出した。
もしかしてそれで……
なんであんなことを言ってしまったんだろう。颯太さんが嫌な気分になるって分かってたはずなのに。
早く点数を見てほしい気持ちと、褒めて欲しい気持ち。それから久々に会えて嬉しい気持ちでいっぱいだった。
だから、颯太さんが嫌な気分になるとか、そんなこと考えてなくて……
「…………………」
全て拾い集めて再びテーブルの上に置いた。
『独占欲ほど怖いものはないからね』
その言葉が、なんだか今しっくりきてしまった。
私も颯太さんのことが好き。
大好きなのに、
それだけじゃダメなのかな…



