「紀恵さん」





部屋に戻って来た颯太さんに


鳴り止まない鼓動で視線を当てれば






「お母さんが来られましたよ。」


「へっ?」





颯太さんの後ろに見えるのは






「紀恵~!来ちゃった!」


「お、お母さんっ!?」





まさかの来客に驚きを隠せなくて






「あら、なんで座り込んでるの?」



「っ!!!!」






慌てて立ち上がる。



が、






「おっと、」





ふらついて倒れた先は、颯太さん。






「どうしたんです?大丈夫ですか?」


「っ───だ、大丈夫だから!!」






くっそぉ…なんでこうなっているのか分かってるくせに…!





俺は何も知りません。

急に倒れてきました。



颯太さんは平然とそんな顔をする。






「体調が優れないみたいですね。ちょうど外に出る用事がありますので、薬か何か買ってきますね」


「え、ちょっと…!」


「では失礼します。」






バタンッと玄関のドアが閉じる音。




に、逃げやがった……





なんで逃げたのか分からないけど
確実逃げたよね?






「颯ちゃんは変わらず心配性ね~」






私とお母さんの2人だけになったこの空間。






「お母さん……何しに来たの?」






お母さんがソファーに座るものだから、私もその隣に腰を下ろした。






「何って、あなた達の様子を見に来たのよ。ちょうどこの辺りまで来ていたからついでにね。」


「そ、そうなんだ……」


「なに?来ちゃダメだった?」






ニヤニヤと微笑むお母さんに全力で首を横に振った。



なんでニヤけているのかは謎だけど。







「それにしても……紀恵、煙草吸ってたりしないわよね?」



「吸うわけないじゃん…まだ未成年なんだし」






まあ成人しても吸うつもりはないけど。






「じゃあ颯ちゃんが吸ってるのかしら」


「颯太さんも吸ってないよ」






なんで急に煙草の話になったのか。



キョトン顔のお母さんに私も同じキョトン顔。






「じゃあこの煙草の匂いはなんなの?」


「そんな匂いする?」






怪訝に思いながらも



クンクンと嗅いでみれば






「(…………あ。)」






お母さんにそう言われなければ気が付かなかった。



自分自身が今凄く煙草臭いんだってことを。







(そういえばカズさん煙草吸ってたっけ…)






その隣に居たのだから、


私の服に染み付いているのだと。






……だから颯太さん気がついたのか。




私がホスト街に行ったこと。

私から煙草の匂いがしたからだ。






(それにしてもカズさんに会ったことまで気がつくなんて)





颯太さんに嘘は通用しないと再度気付かされる。