──────────颯太side







……バタン




重たいドアが閉まる音。




たった1日帰らなかっただけで
この空間が酷く懐かしい気分になる。





甘い匂いが充満していたあの部屋。



甘ったるすぎて気分が悪くなるほど。




ここを出て行くと一瞬でもそんなことを思った自分自身に嫌気がさす。






(……疲れた)





靴を脱いで中に入ろうとすれば、俺の後ろにいる紀恵さんが「あっ!」と声を上げた。



そして、俺の手から紀恵さんの手がスルリと抜け出す。






……この時にやっと気づいた。





俺はずっと手を繋いでいたのだと。




無意識だった。





キミに触れていたから

手にぬくもりがあったのだと。








俺よりも先に中に入った彼女は


背を向ける事はなく、


俺の正面に立って






「おかえり!」





無邪気な笑みとともにそう言った。






(…………ああ、もう。)






そんな事されたら






抱きしめたくてたまらないんだって。








触れたい気持ちを抑えて



俺もキミに





「ただいま」





笑顔を見せた。





今ここで抱きしめてしまったら
この場所から動けそうにないからね。






まずはキミと話をしなければ。





抱きしめるのは


そのあとにでもしたいと思う。