「連絡先交換していないなんてな~、今までどうやって連絡を取り合ってたんだ?」

「今まではメモを残したりしていました。緊急の時はその手が使えなくて困る事もありましたが」



「メモか~ 昔の名残があるみたいだな」





石沢さんの言う通り。



幼い頃の紀恵さんと俺はよくメモを残したりしていた。それは紀恵さんがまだ幼くて携帯を持っていなかったから。



だから自然とそんなやりとりを今になってもしてしまったのかもしれない。




「はい、コレが紀恵の連絡先ね」




連絡先をいただくと、【紀恵】という文字が俺の携帯の画面に映る。




「すみません。ありがとうございます」




携帯の中にその名前がある事に変な感じがして、少しだけ見つめてしまった。




「紀恵のこと、これからもよろしく頼むよ。島崎は他のやつと比べて完璧だから安心して任せられる。」




その言葉、嬉しいようでどこか罪悪感を感じていた。



石沢さんは俺のことをいつも完璧だと言ってくれる。俺をあの家に紹介したのだって、きっとそんな理由で。



そう言われてしまうと、紀恵さんの前でも完璧な俺を演じないとと思ってしまう。





(……俺は、完璧な人間じゃないですよ。)




たかがヘアクリップを1つ見ただけで、ムシャクシャしてしまうような人間なんです。






…………なんて事は言えず





「勿体無いお言葉です。」



そんな事を心に秘めて、

俺はニコリと微笑むのだ。