すると、顎をぐいっと強引に持ち上げられた私。
「───って、のは嘘。つぼみちゃん、よく頑張ったね。いい子いい子」
視界にうつった音怜くんの表情は、やわらかく、子供をあやすように優しかった。
───ドキン。
頭をなでなでされて、急激に体温が上昇する私。
「ねぇ、約束の返事聞かせてよ、つぼみちゃん」
頬杖をつく音怜くんの瞳がこちらを向いている。
いつの間にか、私は口を開いていたけど、急いで閉じた。
けど、私は今、目の前にいる彼に言ってしまいたかった。
───、『いいよ』って。
───、『私の本当の彼氏になって欲しい』って。
頭に浮かぶのは、今まで理々乃ちゃんと朝陽くんのことばかりだった。
けど、今は違う。
赤く染まっていく窓の光が、二人の黒い影を伸ばしている。
「わたしは──」
そう言いかけたとき、ドタドタと誰かがこちらに走ってくる足音で、私はハッとした。
音怜くんはイラついた様子で舌打ちし、ベランダに戻る。
教室の戸が開いて、現れたのは、古典の先生。

