「………はよ」
スマホをいじくる手を止めて、彼は私にそう挨拶してきた。

私は、白い柵を閉じて、家の塀にもたれかかっている音怜くんに質問する。

「ね、音怜くん、なんでここにいるの?」
「なんでって、彼氏が彼女の家に迎えに来るのは定番でしょー?」
「でも、なんで私の家が分かったの?」
「あー、この道、学校まで近道だったから。普段は通らないけど、表札になんとなーく【川高】って書いてあって、たぶんそうかなって思って」


私はあまりにも拍子抜けする、音怜くんの答え方にびっくりした。

「も、もし私じゃない、川高さんだったらどうするの!?」
「そんときは、てきとーに誤魔化す」
「だ、ダメだよ! ほらっ、私と連絡先交換しよう? 分からない事があったら
ちゃんと聞いてよ?」

すると、何故か色素の薄い瞳が弧を描いて笑う。

「へー、俺が違う“川高さん”と会うの、そんなに嫌なんだー?」
思わぬ発言をされて、私は顔がぼっと赤くなった。