「名前、桃だったよな?
 屋敷の中に連れ込んだのは、
 オマエだろ!」



「桃ちゃんが
 起きちゃったってこと?」



「走り回ってんだよ、屋敷の中。

 雨璃さん、どこ?って、
 声張り上げて」



うわっ。



早く屋敷に戻って、

桃ちゃんの暴走を、鎮めなきゃ。





「何時だと思ってんだよ。
 こっちは寝みぃんだよ。

 明日、璃奈とのデートなのに、
 目の下に
 クマ作るわけにはいかねぇだろ? 

 俺が璃奈にフラれたら、
 どう責任取るつもりなんだよ。

 早く屋敷戻って、
 あの女を黙らせろ!」




でも……



今ここで

うるるんとサヨナラしたら……



もう二度と、うるるんに

会えなくなっちゃうんじゃ……





「ほら、屋敷に戻るぞ」




桜牙に腕を引っ張られ

ベンチから腰を上げた僕。



ベンチに座ったままの

うるるんを見下ろすと、


彼女はお月様みたいな

優しい笑顔を浮かべていた。