ニーナは、自分が簡単に行かせてもらえないのは分かっていた。

「私にまだ何か用があるわけ?」 ぴしゃりと言い返し背筋を伸ばして座ったが、作り笑いをするのすら嫌だった。

ジョンはニーナに答える代わりにヘンリーに向かって「病院に行くぞ」と言った。

「病院?何しにいくの?」 ニーナが狼狽えて髪を撫で付けると煌びやかな顔が露わになる。それはどんな表情だろうと、どんな状況だろうと美しいのだ。

ヘンリーも混乱していたが、ともあれシー家が投資した私立病院に車で向かうことにした。

彼らを乗せた車は猛スピードで街を走り抜け病院に向かい、 ニーナの絹のような髪は風に靡いていた。一方、ジョンはニーナの質問には頑なに答えず、冷たくそっぽを向いてしまった。

ビリヤードルームでは満面の笑顔を見せることにやぶさかではなかったが、今はまるで氷のように冷たい。 どうしたというのだろう?

ニーナがジョンと一緒にいるよう強制したのは彼本人なのに、 何を怒っているのだろうか?

ニーナには訳が分からなかった。

彼女は病院が苦手なわけではないが、入院するのは嫌だった。

しかも、ジョンはまだ返事もしない。 病院に着くかという時になってニーナはついに我慢できなくなった。「なんで私を病院に連れてきたの?答えないなら、車を飛び降りるわよ」

そして、いきなり飛び降りる素ぶりを見せた。

彼女がこういう奇行に及んだのは何も初めてではない。 家族の追跡を避けるため、すでに何度も命がけの手段に出たことがあるので、本当を言えば、ちょっとやそっとでは我慢できない痛みに苛まれるのは分かっていた。

しかし、ジョンは動じなかった。 今度ばかりは騙されなかったのだ。