心葉(このは)たちも怒ってないよ」

 諭すような声色は私がまた逃げることを知っているのか、抱き締める彼は壊れないように怯えていた。
 怒っていないことは知っていた。いつだって許してくれるのは彼らだけで、だからこそ私はいつも甘えてしまうのだから。
 戻れないと首を振る私に、彼の声は悲痛に満ちていて胸のうちが締め付けられる。

「俺は――いや、俺たちは棗がいないと駄目なんだ」

 彼が泣いてしまわぬように、背中をさすってやれば肩に押し付けられる頭の重さに愛おしさすら感じるのだ。

「今は戻れないことは分かってる。けど、“死にたい”なんて言うなよ。置いて行かないでくれ」

 綺麗なその言葉を汚さないように、私が触れる訳にはいかないとばかりに口を噤む。
 抱きしめていた力が緩み、彼の額が私の額へと当てられ鼻先が触れるのがくすぐったいとばかりに目を細める。

「棗、俺はちゃんとお前を知っているからこんなことしか言えないけど、独りでは泣くな」

 私をよく知ると謳う彼は、本当に私をよく知っているようで、思わず笑みを零してしまえば鼻先を噛み付かれる。

「お前は重いって思うんだろ? でもお願いだ。何かあったら俺を呼べ。心葉たちは呼べなくても、俺はお前がどこにいてもちゃんと探してやる。だから、俺がいるところで泣けよ」

 溢れ出しそうになる涙の決壊を崩したのは彼の指先で、掬われた先からぼろぼろと零れるそれは留まるところを知らなかった。
 まだ離れて数ヶ月だったにも関わらず、戻りたかったのだと嘔吐く私に彼は頷くだけだ。呆れの混じるその声は私を甘やかすには十分で、しがみつくように泣く私をあやすのはお手の物だった。