彼は問題ないとばかりにスピードを更に上げ、交差点の中央でぐるりと一回転する。待っているかのような行動に疑問を浮かべるが、猛スピードで並んできた2台のバイクに合点がいく。
 青い髪が風に攫われながら手を振るのはもちろん蒼で、その少し後ろで吹かせているのは前髪をピンでとめたレオだった。
 彼らの登場は注目をより一層集めることになり、通りに出ている人が増えて来ているような錯覚さえも覚えてしまうほどだ。

「なっちゃーん!」

 笑顔で手を振る蒼に危ないからやめろと怒鳴れば、舌を出して大人しく後方につく。聞き分けがいいことにちょっとだけ気持ち悪さを感じたのは内緒だ。
 次第に人からの声もなくなり、人通りするもなくなっていった。胃がキリキリと痛み出す中、街外れの廃工場前へと着けばもう帰れないのだと虚無感が襲う。
 どうしてこうなったと思い返せば、こうなるべくしてなったとしか言いようがないほどに私は間抜けであったと言うしかない。

「おい、メットは脱げよ」

 地面に降りても未だヘルメットを被り続けて廃工場を見詰める私に、バイクを停めた修人がコツンと指先で小突く。ふるふると首を振る私に、訝しげな目で見てくる修人だが、魂胆は分かっているからなとフルフェイスなのをいいことに倖を睨む。
 入る前にヘルメットを取った私に倖は微笑むだろう。あなたが狼嵐の溜まり場である廃工場に入って行くのを誰かに目撃されていたでしょうねと。
 そうなれば彼らは私が姫になるという口実を得てしまうわけであり、そんなものは絶対に阻止しなければならない。