妙な沈黙が下りつつも、蒼はそれ以上は訊いても答えないと察したのか、曖昧な相槌を打つだけだった。

「それでは、俺はそろそろ戻りますね」

 沈黙を濁すかのように立ち上がった先生は、そう言って保健室から出て行こうとする。けれど何を思ったのか、扉に手をかけくるりと振り返った。

「篠原さん、良い奴等ですよ」

 なんて悪戯に微笑むものだから、こちらも一つだけ落としても構わないだろうと口を開いた。

「――先生、後日改めさせていただきます。“宴会は朝方までに”」

 急に引き留める私の行動に、どうしたんだと口を開かれる前に早口で連ねる。
 その意味を真に理解できるのは、この場に私と彼だけ。あの場で過ごした者ならば、あの人が使っていたこの合図も知っているはずだ。
 案の定彼は解ったようで、何も言わずに頷くと出て行った。

「なっちゃーん、今のなにー?」

 すかさず擦り寄る蒼にも、訝しげに見つめる倖も、もちろん睨んでくる修人にもなんでもないと言うしかなかった。

「何、今の」

「さあ?」

「え〜、2人だけの秘密〜?」

 駄々を捏ねるように訊いてくる蒼と違って、倖と修人は無言で見つめてくるのはやめて欲しい。
 それでもすぐに倖がどうでもいいと告げるのは、兄に対する何かしらの思いからか。薄く笑う修人はどこか見守るような眼差しで、思わずじっと見てしまう。
 移された視線になんだと問われているようで、逸らしてしまえば彼は私に近付くと、頭の上に手を置いた。
 私が座っているせいで丁度いい感じになっているが、歳なんて一つしか離れていないのに子供扱いとはどういう了見か。睨みあげ、不貞腐れたように眉を寄せれば彼は徐ろに撫でる。