「なーがーいーっ! 僕もう待てないよ!!」

 駆け寄ってくる蒼が私の腕を取り、じゃれついてくるのにはどうも子犬のようにしか見えない。

「話は終わりましたか?」

 苦笑混じりに入ってくる倖と、その後から感情の読み取り辛い表情で続く修人。
 終わった、と端的に返す私にはやはり愛想なんてなく、それでも彼等が気にするとも思わない。それもまた、一種の信用だと言ってしまえることに、私は気づかずに一人欠けていることに気付いた。

「そういえばレオは?」

 ふとした疑問だが、どうにも彼が保健室へと入ってくる様子はなく、試しに訊いてみる。思い返してみれば彼は廊下の時はいたというのに、保健室に来た時は既に姿はなかった。
 腕に絡む蒼を見下げれば、彼はへらりと目を細める。

「おつかいだよ」

 言及されると困るようなことなのか、その目は笑っていなかった。しかし、さして気にすることもなく私はそれ以上訊くことはしなかった。

「それじゃあ私ちょっと理事長のところに行くから。蒼、離れて」

 立ち上がろうと蒼を引き剥がそうとするが、彼はきょとんとした顔で見上げてくるばかりだ。何気に力が強く、立ち上がれないのだけれど。
 修人が眉を寄せ、壁にもたれたままに不思議そうな顔で言った。

「なんで?」

 見た目だけは整っているから、モデルとしても通用しそうなその出で立ち。

「なんでって、そりゃあ先生に手を上げたんだから、処分を聞きに行かなくちゃでしょう」

「ああ、そういうことですか」