「――あの人達は、弱いから」

 弱いなんて、自分も同じだというのに、こうも簡単に口にするのもどうかと思う。口に出すのは少しだけ幅かられたが、それでも私の知っている強い人達には到底敵わない。

「私は、逃亡者なんですよ」

 鬼龍も、鬼麟も、篠原も。もちろん、あの場所からも逃げてきた。逃げることしかできない、憐れな逃亡者。
 漏らし過ぎたかもしれない。そんな心配をしている中、先生はさして言及するわけでもなく、そうですかとだけ返した。
 問い詰められたりしなくて良かったと思っている反面、どこか拍子抜けの反応。
 先生はこれまでの空気を一新するかのように微笑むと、扉を指さした。

「そろそろですかね」

 その顔にはいつもの飄々とした微笑みが戻っていて、何故か安心にも似た気持ちになってしまう。

「俺はもう何も言いませんし、言えないでしょう。彼等がここへ入った時から先生と生徒に戻ります。けれど、俺は貴女のお力になりたいと、いつでも思っていますよ」

 深々と下げられた頭は、かつての仲間で家族だった人。もう到底戻れないものだと、赦されることではないと逃げた私を、彼は支えようとしてくれる。
 妙なところで謙虚なのがまた狡くて、彼の優しさに頷くしかできなくなってしまった。

「ありがとう」

 私がそう返すと上げられた彼はもう“先生”であり、私もまた“生徒”に戻る。
 先生が頭をあげると同時に開かれた扉から入ってくる蒼は、唇を尖らせ文句を言いながらいじけた素振りを見せる。