謝られたいわけじゃない、謝らせたいわけじゃない。
 私を思う気持ちが伝わってきてしまうのはどうしようもなく、ならば諦める他ない。

 今更だなんてこの人に思うことはきっとお門違いで、単純に、どうして私みたいなのに謝りなんてするのか。不可解なのだ。
 彼の旋毛を見下ろせば、艶のある髪が揺れた。

「俺は、お嬢との繋がりはあまりなかったです。けれど、約束したんです」

 後悔に揺らいでいた瞳が定まり、上げた顔には決意が宿っていた。

「組長と奥様に、託されたんです。お嬢がこれ以上幸せを拒まないようにと」

 渡したかったプレゼントがあったのだ。きっと喜んでくれるだろうと、大事に抱えたプレゼントが。
 揺らめく炎の中に倒れる二人を見て投げ出したそれは、ひしゃげて、とてもじゃないけど誰かに渡せる物ではなくなった。
 誰よりも優しく、誰よりも強い信念を持って包んでくれた二人。
 ごめんなさい、呟く言葉はもう届かないことを知っても、私の口からは止まることがなかった。
 酷く頭痛がして、頭を抱え込むように俯く。

「お二人は、心配されていました。お二人が亡くなられた後、ご自身を責めるであろうお嬢のことを」

 責められずにはいられない。だって、私がしたことは責められるべきもの。
 私には幸せを拒むことしか赦されない。それ以外を認める強さなんて、私は持っていない。だからこそ、何度も何度も蘇る記憶が瞼を焼き切って、赤い着物が視界に映り込むのだ。
 耳元で囁く言葉に蓋をしても、頭に直接響くのはこれが幻聴だから。