きっと今の私を傍から見ると、とても情けない顔をしているに違いない。そう確信しつつ、半ば先生から目を逸らしながら言った。

「ごめんなさい、殴ったりして……怪我をさせちゃって」

 持ち上げた視線の先の先生は、やはり柔和な笑みを絶やすことなく、「俺が悪いですから」とそんなに自分を責めるなと諭す。優しいそれに懐かしさを覚え、何かを忘れているような、喉に小骨の刺さった感じがする。
 確かにあった何かを、置いてきてしまった喪失感。

「さて、皆さんには一度席を外して頂きたいのですが」

 オブラートに包んだはいいが、それは暗に出て行けと示唆する物言い。もちろん、手当てと付き添いの末、いきなり出て行けと言われても反論があるのも当然だ。

「さあ」

 有無を言わせぬ一言に、渋々重い腰を見送ることしかできなかったが、私も後に続いて出ようとする。すると、先生の手が私の肩を叩き、その行動を制止させる。
 どうやら私に用があったらしい、
 倖にとって、先生は兄弟であり家族だ。それを傷付けた私は、彼に対する罪悪感でいっぱいで顔を見るのも戸惑う。
 倖もまた同じようにして保健室を後にしようと、立ち上がり私の横をすり抜けて行く。思わず後ずさる半歩に、自身が恐れているのだと自覚する。

「怒っていませんよ、寧ろ感謝しているくらいですから」

 唐突に耳元で呟かれた兄の負傷を喜ぶ声に、慌てて振り向けばいつもより上機嫌な後ろ姿。
 詰られこそすれ、感謝されるとは思ってもいなかっただけに驚きも倍増だ。