責められるべき、咎められるべきことをしたのに、そこには軽蔑も怒りもなく、ただ優しい眼差しだ。

「棗、来い」

 右手首を握りながら、私は首を振る。行けない、行けるはずがない。
 修人は私に歩み寄り、周囲に散れと一言だけ鋭く言い放つ。蜘蛛の子を散らすようにしてそれぞれの場所へと戻っていく生徒達。

「何か、言われたのか」

 いつもは声音に感情なんて乗せないくせに、私を宥めようと目元を拭う指先が熱く感じる。
 全面的に非があるのは私の方だ。先生はただ、理不尽に殴られただけで、彼は何も悪くなんてないのだ。
 退学になるかもしれない、次はどこの学校が受け入れてくれるか。なんて、逃げられないことを想定して、もう別の場所でのことを考え始めている自分に嫌気がさす。

「何泣いてんだ」

「気分だから」

 ゴリ押しな言い訳に、彼は肯定も否定もせずに瞬きをする。その優しさに胸焼けしそうになり、ひどく居心地が悪い。

「喧嘩できるのか」

「……喧嘩じゃない。一方的なものは、喧嘩なんて言わないよ」

 それは単なる暴力であり蹂躙だ。
 無抵抗なものへ、反撃の隙をも与えずに痛ぶるのは、喧嘩なんて生易しいものではないのだから。

「お前については聞かねぇよ、どうせ言わねぇだろうからな。だが、取り敢えずは深影んとこ行くぞ」

 一瞬目を瞬かせたが、それでももとの表情へと戻り、保健室へと促すように添えられた手。
私は首を横に振り、静かにその手を降ろさせた。
 行かなくちゃいけない。謝ることもしなくちゃいけない。それも解っている。