だが、突然身体が浮き上がったことによっていとも容易く掻き消えた声。遅れて漏れた声は、可愛げなんてない、間抜けな悲鳴だった。

「言い逃げは、良くないと思うよ」

 私の身体を軽々と持ち上げ、先程とは打って変わって不敵に笑うのは玲苑だった。間近で見たせいで、銀色だと思っていた髪が、灰色だったことに驚くが、それはいたってどうでもいいことだ。
 何よりも考えなくてはいけないのはこの状況であって、そんな髪色は今はどうだっていい。

「ちょっ、降ろしてっ」

「いいの? 暴れると見えちゃうけど」

 肩に担がれているせいで、ちょっと足を上げるとスカートも上がり、中が見えてしまう。それを知った上でこの担ぎ方をしているなんて、とんだ確信犯だ。
 ぷらぷらと、どうすることもできなくなり、結果的に大人しくなる。けれど、この状態を甘んじて受け入れておくわけにもいかず、堪らず抗議の声を上げる。

「待って、どこ行く気!?」

 待ってくれそうもない彼は、今来た方向に引き返していく。揺れる中喋ると、危うく舌を噛みそうになり、背中を叩くがノーダメージだ。もちろん手加減してるからなのだが。

「さあて、ね。それより、棗ちゃん。男ってさ、割と単純なんだ」

「はぁ? そんなことより降ろして、今すぐ降ろして。あなた達となんて関わりたくないの、いーやーなーの!」

 何をやっても聞いてくれない彼はけらけらと、それはもう愉しそうに喉を鳴らす。そのまま西校舎に入れば、他の生徒達に奇異な目を向けられるがそれもお構い無し。