低く唸るように言い、彼は私との距離を埋める。
 本当に私が一般人であったならば、それだけでも恐怖するのだろう。けれどそこに恐怖を覚えることなんてない。
 胸倉を掴み上げられ、ボタンが耐え切れずに飛び散る。ぐっと近付く顔に、吐息が混ざるも止められない。
 苛立ちを隠せないのは一緒で、最初にムカつかせたのはそっちだ。
 出し惜しみなどしないで、全力で放つ殺気。殺すことを口にも出さず、空気だけで伝える。
 するりと離れた手のままに、彼は膝をつき驚愕に目を丸くする。それは彼等も同じで、質の違いというものを見せつける。
 あんまりやるものではない、と言ったのは果たして誰だったか。
 ここの連中は私を苛つかせる天才だから、これはいわば不可抗力だ。したくてしたわけではなく、そうさせたからそうしたまで。

「だから弱いんだよ」

 忠告を破り、構わず進んだのはそちらの落ち度。私の問題ではない。彼等の自業自得というものだ。
 修人に一歩ずつ近寄ると、彼の金糸から赤い瞳が私を見上げる。なんて綺麗で、なんて穢い赤。
 恨めしい、羨ましい。そんな戯れ言を弄ぶ。

「死ぬ覚悟も出来ないくせに、近寄らないで」

 無知は罪だと思う。かつての私のように、ただひたむきに純粋に求めるのはあまりにも愚かだ。見ているこっちが目を背けたくなるくらいに。
 謝る気なんてないくせに、白々しくも玲苑にはごめんね、とだけ落とす。私も結局は、倖のことをとやかく言えない、空っぽの謝罪で満たしてなかったことにしようとする。