彼の細められた瞳が、私の罪を見透かしているように見えて、堪らず目を逸らす。
 荒れた気持ちになるのも、あんなものを見たせいだ。ささくれ立つ気持ちには収まりどころがなく、泣きたくなるほどに苛々する。

「どうした」

 その言葉にあるのは余計な詮索に基づく勘繰りなどではなく、純粋な心配と気遣いによるものだった。
 嫌になる。赤が私を見つめ、私が赤を見つめる。鼻をつく死の香りは、夢から漏れ出た幻覚に過ぎない。そうと解っていても嫌悪が顔に現れ歪む。
 黙ったまま立ち上がると、彼の手はいとも簡単に離れ、地に落ちる。その手の離れ方にまたチラつく映像。何度だって繰り返すのは、あの日の出来事だ。
 頬が彼の手の熱を帯びたが、それもすぐに冷めてしまう。私が夢から覚めたように。

「……ごめんなさい」

 一言だけ置き捨てた詫びは彼にちゃんと届いただろうか。寝不足のせいで回転率の悪い思考回路に檄を飛ばし、次の安息の地を探り出す。
 けれど突然身体のバランスが崩れ、次いで背中に熱が伝わる。

「……どうしたんだ」

 感情の色を見せず、静かに再度問われる。
 逃す気はないと、強く引かれた腕。彼の手に今にも引きずり込もうとする赤い手が視え、喉から声にならない音が漏れ出る。
 ゆっくりと彼の手から腕へと這い上がり、頬を撫ぜて取り込もうと沈み込む。背後に微笑むその瞳が、どこまでも追い掛けると不敵に細められる。
 堪らず振り払い、掴まれた腕を胸へと抱え込み一歩後ずさる。霧散する赤い欠片を睨み付けても、それはもう跡形もなく散っていた。