最早逃がす気などない先生は、じっとその双眸で私を追い込んでいく。

「……それは、嫌がらせですか?」

 結局耐え切れなくなった私は、質問に質問で返して逃げ道を画策する。

「まさか、とんでもない。言ったでしょう、俺如きではあなたには勝てないと」

 冗談か、本気か。それともその両方なのか。今の先生の表情からは読み取れず、その真意にまでは触れられない。
 男の、しかも大の大人が女子高生に勝てないと宣う人を初めて見たかもしれない。今までは、あの名前と役割で思ってはいただろうが、こうして面と向かって言われることなんてなかった。言えなかったのだろう。
 格式と矜持、つまりは詰まらないプライドで成り立っていた世界。
 でもこうもはっきりと言われてしまえば、逆に清々しいもので不思議な気分に見舞われる。
 先生は、静かに言った。

「捜しています」

 危うく漏れそうになった、誰がという主語。訊く必要がないくらいそこに身に覚えがあり、零すまでには至らなかった。
 十中八九それはあいつらのことだろうと、確認するまでもない。

「何のことですか」

 ここにきて、とぼけるという卑怯な手を使う。そうすることが精一杯なのだと、僅かに握った拳。

「鬼龍が、あなたを捜しています」

 私のくだらない足掻きに気付いてるだろうに、意地悪くもわざわざ主語をつけて言い改める。それでも私には関係ない。
 逃げの言葉で拒絶する。

「私には、関係ありません」

 辛うじて目線を逸らすことなく言ったのは、逆に褒めて欲しいくらいだ。