赤い表紙に、金箔文字で書かれた題名は、『共鳴』。作者は『鹿島 誠(かしま せい)』と同じく金箔文字が隅に小さく書かれている。
 ああ、この人かと腑に落ちる。
 メジャーではないけれど、独特な描写と台詞回しで、かといってさほどクセもなく、個人的に好きな作家だ。何冊かこの人の本を持ってもいるので、手に馴染んだのはそのせいだ。

「ご存知ですか?」

 まじまじと手の中に収まる本を見ていると、先生が滑らかに視線を落とした。
 はい、と答えると彼は目を輝かせて、またカウンターの下へと潜り込む。

「まさか知っている人と会えるなんて、まああまり有名ではないので仕方ないですけど」

 確かにこの人の作品はあまり知られていない。だからこそ同じようにこの人の作品に触れた読者と巡り会うことは少ないかもしれない。
 良い作家なのに、そこが少しだけ勿体無い。
 カウンターの下からまた出た先生の手には、やはり鹿島 誠の作品があり、分厚さが重なって重たそうに見える。

「篠原さん、これ読んでみます?」

 渡された数冊の本は、私の手元のものと合わせて五冊となった。それらからは強めに香る本の香りが、重さを紛らわすようだ。
 私この匂い、嫌いじゃないんだよな。
 鼻腔を擽る香りに、先程までささくれていた気持ちが和らいでいく。

「さて篠原さん、授業はどうしたんですか?」

 彼はカウンターの席へと戻り、顎に手を置き下から覗くようにしてその目を細める。そこにこの本ときて、変な意地悪をされているような気分になる。