「レオ! なっちゃんが、なっちゃいだだだだだっ!!」

 縮む、縮んじゃうと今度は抗議の声を上げる。
 蒼の身長は玲苑からしてみれば叩きやすいのだろうか。だとしたら、あまり蒼と身長差のない私も彼に不用意に近付くと連打されるということか。それは嫌だなぁ。

「棗ちゃん、笑えたの?」

 信じられないものを見たかのような口振りだ。
 笑えたのとは、私が笑えないとでも思っていたということだ。笑えない、笑わないとしたなら、私はどんな鉄人なんだろうか。私でも、面白いことにはそりゃあ笑うことだってあるというのに、失礼な物言いだ。

「何言ってんの?」

 だからこその一言だ。
 私に対する彼等の認識が一体どうなっていることか知らないが、私とて普通の感性を持っている。質問に質問で返すような形となってしまったが、それは訊き方が悪いので仕方ない。

「どうして笑わないの」

 そこに帯びるのは、揺らめく哀しみ。
 何が楽しいのだ。こんな意味不明な問いかけに、何を求めてそれを訊くのか。意味なく、土足で踏み込まれた領域は、何者も受け入れない場所だ。
 それこそ、おいそれと立ち入っていい所ではないのだ。
 扉へと歩く私を見つめるクラスメイトの顔は皆不安そうに歪められていて、波紋をこれ以上立てることのないよう願ってた。
 蒼が、どこに行くのかと問いかける前に睨んでその言葉を制止する。私から出たものは殺気という名の拒絶。たとえ蒼や玲苑であっても、見えないなにかに縛られたかのように動けなくなる。