「噂が、流れてたの」

 自身で作った沈黙に耐え切れなくなったら私は、咄嗟に思いついた嘘で取り繕う。本当はそんな噂流れてなどいない。
 何しろ鬼龍のメンバー以外知らないことだ。鬼麟がいなくなったことなんて、噂どころか知ることさえないだろう。情報操作もしていたのだ。
 現に、この人達の顔を見ればそれが顕著に現れている。
 知らなかったでしょ、と嘲笑ってやりたい気分だ。
 けれど、ここで話してしまった以上広まってしまうな、とどこか達観する自分がいて、諦めているのだと腑に落ちる。

「噂、か……」

 それ以上聞く気がないのか、小さく呟いて降ろされた肩の手が力なく揺れる。
 それでも納得のいかない蒼が叫ぶ。

「修人! それでいいの!?」

 怒りを孕んだその叫びに、修人は一瞥してから頷いた。

「ただの噂だ。本当にそうならば、とっくに情報を掴んでる」

 その掴むべき情報が捻じ曲げられているとも知らずに、あまりにも楽観視した考えだ。本当だからこそ出回らず、それが先ほどの表情に繋がるというのに。
 そんなことで騙されてくれるのであれば、こちらとしては万々歳なのだが。それに知ったところで何となるという話で、もう終わった話でもある。
 それよりも気になるのはちらほらと垣間見える執着だ。
 しかしそれもまた私にとっては関係のないことだ。私は解放されたのを機に無言で立ち上がり、「私、もう用済みでしょう」、踵を返して歩き出す。

「篠原さん!」

 それを引き止めたのは意外というかなんというか、倖だった。