彼女はゆらりと立ち上がると、動けない僕たちへと近付いてくる。なんの感情もない彼女の顔は、やっぱりなっちゃんにそっくりで、だからこそ余計に疑問は尽きないままだった。

「少しの間だけでも、大人しくして欲しいの。そうすれば、ちゃんと全部終わらせるから」

 彼女のその言葉はなにを意味しているのか。またも独り言のようなそれを残し、1人ずつの腹に重い一撃を食らわせていく。
 鋭い痛みは小さな呻き声を口から零れさせ、衝撃に体を支え続けることが出来ずに倒れる。視界はスローモーションのようで、地面に伏せた痛みよりも彼女に殴られた腹の方が痛かった。
 修人も倖も同様にして倒れているのが見え、徐々に薄れていく意識にレオと彼女の姿がぼんやりと映る。

「泥舟に乗り続けるつもり?」

「女の子ひとりでどうにかなるなら、とっくに沈んでたよ」

 彼女の重い拳がレオの腹部に刺さるが、崩れそうになるレオを支えたまま彼女は言葉を続ける。

「男ひとりに消された過去があるんだから、燃やせば全部一緒だよ」

「火が......怖いくせに......」

 意識がなくなるレオを離した彼女の横顔は、少しだけ悲しそうに見えた。
 結局僕たちはただ一方的に蹂躙され、意識は暗闇に引き摺り呑まれた。





 好きなはずのバイクの唸る音が今は耳障りでしかなく、それが余計に俺を苛立たせる。
 出て行った棗を追い掛け、バイクを走らせているものの、未だに彼女の背中を見つけることは出来ていなかった。