「あなた達は棗に出会わなかった。なにも知らない。そうしていつも通りの学生生活を送ればいいの」

 僕たちの感情などお構いなしにそう言う彼女のそれは、お願いなどと言うものではなかった。
 最早命令とも取れるような物言いに、修人がテーブルを殴ったことで静かな部屋に不釣り合いな鈍い音が響いた。

「ふざけんな。あいつはもう俺たちの仲間だ。突然現れて死んだなんてふざけたこと吐かしやがって、そんなんで納得するとでも思ってんのか?」

 修人のこめかみに浮かぶ青筋で、どれだけ抑えているかがわかった。僕たちだってそれは同じで、一方的な彼女に皆それぞれが苛立ちを隠すことも無く表情に出ていた。
 修人の鋭い瞳は彼女を刺すようにして注がれている。けれど、それを意に介することもなく“鬼麟”は残念とばかりにゆっくりと瞬きをした。

「......口頭だけで済むなら楽だったのに、それもそうか。あなた達に恨みなんてないけれど、出しゃばられると邪魔なの。無関係な人を巻き込みたくないって“棗の願い”を、少しは聞いて欲しかっただけなんだよ」

 冷たいというよりも、凍っているかのような声音。それと同時に背中にナイフを押し付けられているかのような錯覚に、僕たちは言葉も出なくなる。
 呼吸も浅くなり、ただ僕たちを見詰めているだけの彼女に恐怖を覚える。これが“鬼麟”で、これがあの鬼龍を束ねている総長の凄みなのかと思い知らされる。