憧れの人を前にしても、彼にとってなっちゃんの方が大きくなっていたのだろうかと、この張り詰めた空気の中瞬きさえもするのをはばかられた。

「......帰ったんだよ、元のところにね」

 挑発するかのように不敵に笑む彼女。
 正直“鬼麟”だと宣う彼女のことを本物であるか疑っていた部分があった。だって見るからに華奢で普通の女の子にしか見えないのだから、そう思うのは当然だろう。
 彼女の視線は僕に向くことなく、ましてや倖とレオにも向けられずに修人を見たまま。品定めをするかのように動いた視線は、一瞬ですべての興味の色を失っていた。
 狼嵐の巣窟に乗り込んで来た上にこの不遜な態度に、普通ならば苦言を呈していたところだろう。ましてや女に舐められたとあっては僕たちの沽券に関わる。
 けれどそれは出来ない。彼女に手を出せば僕たちは為す術なくねじ伏せられる。そう直感してしまったからこそ、僕たちは実力行使に出ることは出来なかった。
 それでも修人は総長であるからか、挑発でもって彼女に言葉を返す。

「それで、あんたは何しに来た。わざわざ棗の里帰りを報告に来てくれたのか? それとも、単身で喧嘩でも売りに来たのか?」

「まさか。そんな無意味なことするわけないし、あなた達じゃ弱過ぎるから」

 なっちゃんにも散々言われた言葉だ。それをなっちゃんと同じ顔した“鬼麟”に言われるのはなんとも妙な気持ちで、それでも納得させられるだけの力量の差が見えるのが痛いところだ。